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大阪地方裁判所 昭和56年(ヨ)1990号 決定 1982年2月25日

申請人

宮村五重

右訴訟代理人弁護士

戸谷茂樹

永岡昇司

東垣内清

被申請人

不二観光バス株式会社

右代表者代表取締役

三宮浄

右訴訟代理人弁護士

門間進

角源三

主文

申請人が被申請人に対し雇用契約上の地位を有することを仮に定める。

被申請人は、申請人に対し、昭和五六年五月以降本案判決言渡しに至るまで、毎月二五日限り月額金一一万六七三五円の割合による金員を仮に支払え。

申請人のその余の仮処分申請を却下する。

申請費用は被申請人の負担とする。

理由

第一当事者の求めた裁判

一  申請人

1  被申請人会社は、申請人を被申請人会社の従業員(バスガイド)として取扱い、昭和五六年五月から毎月二五日限り金二〇万二四六二円を仮に支払え。

2  申請費用は被申請人の負担とする。

二  被申請人

1  申請人の申請を却下する。

2  申請費用は申請人の負担とする。

第二当事者の主張

申請の理由は別紙(略)(一)に、これに対する認否並びに被申請人の主張は別紙(二)に各記載のとおりである。

第三当裁判所の判断

一  被申請人会社は、いわゆる観光バス営業を主たる目的とする株式会社で、資本金は八〇〇〇万円、設立年月日は昭和三六年一一月一五日であること、同社は大型バス二四台を保有し、従業員のうち、運転手は二九名、整備士は二名、事務営業担当は一〇名、本勤ガイドは一〇名であることはいずれも当事者間に争いがない。

二  申請人と被申請人との間の雇用関係について

申請人は、被申請人との間の雇用関係につき、期間の定めのない継続的労働契約であると主張し、被申請人は、これにつき、日日雇い入れられる、乗務する日ごとの労働契約であると主張するので、まず、この点につき判断する。

1  疎明資料によれば、以下の事実が一応認められる(一部争いのない事実を含む。)。

(一) 申請人は、昭和五三年の九月か一〇月初めころ、予め被申請人会社に対しアルバイトガイドとしての就労に関し電話連絡をしたのち、当時の被申請人会社のガイド指導員藤解と面接し、被申請人会社は、右藤解において申請人のバスガイドの経験その他の経歴等につき聴取し、さらにアルバイトガイドの賃金その他の就労条件について説明したうえ、被申請人会社としては申請人をアルバイトガイドの名簿に登録することとし、こののち、申請人は被申請人会社のバスにガイドとして乗務するところとなった。

(二) 申請人は、高校卒業の年の昭和三九年九月から昭和四七年ころまでの間に、緑風観光大阪はとバス、近江鉄道観光バス、大阪名鉄バス、近江鉄道バスにガイドとして勤務した経験を有していた。

(三) アルバイトガイドが被申請人会社の名簿に登録され、同会社で勤務することが決まると、会社内の掲示板にその旨が氏名とともに掲示されることになっており、申請人も、右(一)項記載の登録後間もなく、被申請人会社において今度アルバイトガイドとして雇用された旨が右掲示板に掲示された。

(四) 申請人は昭和五三年一〇月八日を初回として、昭和五六年四月一八日までの間に別紙(三)記載のとおり合計一、二二六日バスガイドとして勤務した。

このうち、昭和五五年八月度は、子供の夏休みを利用して帰省したことにより、同年九月度は、業務中の足の負傷により一二日間くらい休んだことにより、それぞれ勤務日数が少くなっているものである。

(五) 被申請人会社におけるバスガイドは、その勤務の形態や給料の計算方法等の被申請人会社との法律関係の差異等から本勤ガイド、常勤アルバイトガイド、フリーガイド、ツァーメイトに分けられ、申請人の如き常勤のアルバイトガイドの人数は昭和五六年四月一五日現在で一二名であり、そのうち就労期間の長い人は九年くらい、平均して四、五年くらい被申請人会社に勤務している。

(六) 本勤ガイドと常勤アルバイトガイドの差異の主なものは次のとおりである。

(1) 本勤ガイドは、入社に際し、自筆履歴書、卒業証明書等を提出し、さらに入社後一四日以内に戸籍謄本、身元保証書、誓約書等を提出することとされているが、常勤アルバイトガイドが被申請人会社において就労を希望する際には提出書類は必要でない。

(2) 本勤ガイドは、乗務勤務のないときは、休暇以外日勤勤務が存するが、常勤アルバイトガイドは乗務のみで、日勤勤務はない。

(3) 本勤ガイドには、初任給、一時金、賃上げ額等につき、会社と労働組合との間の協定により定められた額が支給されるが、常勤アルバイトガイドの賃金等については、毎年会社・組合間の春闘終了後、会社と常勤アルバイトガイド全員の接衝(ママ)により日給、時間外手当、泊手当等が「昭和〇〇年度アルバイトガイド賃金規定」として決定され、例えば、泊手当、通勤手当等の額も前者と後者とでは異なる。

(4) 本勤ガイドは労働時間七時間、休憩時間一時間の合計八時間がいわゆる拘束時間であるが、常動アルバイトガイドは八時間三〇分が日給分の就労時間(拘束時間)である。

(5) 本勤ガイドは不二観光バス労働組合の組合員であるが、常勤アルバイトガイドには同組合の組合員はいない。

(6) 本勤ガイドには退職金が支給されるが、常勤アルバイトガイドには支給されない。また、前者には有給休暇があるが、後者にはこれがない。

(七) なお、フリーガイド、ツァーメイトは、本勤ガイド、常勤アルバイトガイドの両者でも手が足りないときに、その日に限り雇い入れられるもので、そのうちツァーメイトは大学生のアルバイトをそのように呼んでおり、フリーガイドは常勤アルバイトガイドよりも日給の単価が高く、その支払も勤務の日ごとになされ、支払が勤務日ごとになされる点はツァーメイトも同様である。

(八) 常勤アルバイトガイドの賃金等の支払いは、前月二一日から当月二〇日までの分が当月二五日に一括して支給され、源泉所得税は月額を摘要(ママ)することとされ、また、アルバイトガイド賃金規定(昭和五五年度まで)の中には、オフ保証給として、保証月一二月、一月、二月の三か月(一一月二一日~二月二〇日)に一律月額五万円の積上げ支給がなされる旨、さらに昭和五五年度アルバイトガイド賃金規定には、その(三)、(11)に報償金を年二回に分け支給する(支給基準は出勤日数に四〇〇円を乗じた額、ただし支給日まで在籍する者)、対象期間夏季=一二月二一日~六月二〇日支給日は七月二五日予定、冬季=六月二一日~一二月二〇日支給日は一二月二五日予定との旨、がそれぞれ規定されている。

(九) また、昭和五五年度までのアルバイトガイド賃金規定の中には、「教習手当一日につき五〇〇円」との定めがあり、常勤アルバイトガイドの方が本勤ガイドに比べ平均してバスガイドとしての経験が長く、前者が仕事上の指導を後者に対してなすことが予定され、その報酬がこのように定められている。

(一〇) 常勤アルバイトガイドの乗務の段取りについては、当人が予定日の前日もバスに乗務しておれば、前日までに運行管理者の前のカウンター上の大板に記入された氏名を確認して本人の手でチェックし、もし前日乗務していなければ、前日までに(泊りの仕事については二、三日前までに)電話で運行管理者から連絡して乗務の確認をとることとされている。

(一一) 常勤アルバイトガイドにも、本勤ガイドと同様、タイムカードがあり、また職場にロッカーも個々に用意されている。

2  以上の諸事実を踏まえてさらに検討を進めるに、被申請人会社ではバス二四台を保有し、運転手は二九名いるのに、本勤ガイドは一〇名しかおらず、常勤アルバイトガイドの何名かが常時稼働していなければ被申請人会社の運営は成り立たないと推測されるところ、観光バスの稼動率は日によって異なるので、まず本勤ガイドを第一順位的に乗務させ、これだけでは常時不足すると考えられるガイド数名に常勤アルバイトガイドのいずれかを充て、常勤アルバイトガイド一二名全員が勤務しても本勤ガイドとの合計は二二名で、観光シーズン等にこれでも不足するときなどにフリーガイドやツァーメイトを充てる(場合によっては運転手二人が乗務し、ガイドは乗務しないこともある。)こととされていることが窺われ、結局、常勤アルバイトガイドは、シーズンや日によって異なる観光バスの需要の差異といった会社の要求、必要度に応じてバスガイドの就労が適宜得られるようにとのいわば会社の都合から、かかる就労の形態が生まれたものと考えられる。

前記1、(六)に記載した如く常勤アルバイトガイドと本勤ガイドとの間には種々の差異が認められるが、これは主として右に述べた会社の都合を生かすためにとられた就労の形態であることに起因するものと考えられ、常勤アルバイトガイドの現実の勤務の状況、とりわけ勤務日数(勤務の頻度)、被申請人会社における申請人はじめ常勤アルバイトガイドの勤務の期間、給与等の支払の実態、その他会社での採用時の掲示等前記の諸事実を総合考慮すると、被申請人会社と申請人間の雇用契約は、被申請人が主張するような日々雇い入れられる勤務日ごとの契約というのではなく、右当事者間の継続的雇用契約と考えるのがその実態に合致するものであり、したがって、当事者双方の意思も継続的雇用契約の締結ということで合意があったものと考えるのが相当である。

さらに、疎明資料によれば、前記1、(一)の面接の際にも申請人の雇用につき例えば一月とか一年とかの期間の定めは何もなされなかったことが一応認められ、かかる事実に前記の常勤アルバイトガイドの被申請人会社における勤務の期間等を併せ考慮すると、前記継続的雇用契約は期間の定めのないものと考えるのが相当である。

三  申請人の就労停止について

1  被申請人会社が申請人に対し仕事を指示しなくなった原因につき、疎明資料によれば以下の事実が一応認められる。

(一) 昭和五五年一〇月一六日勤務終了後、会社内の更衣室に常勤アルバイトガイド約一〇名が集まって会合がもたれ、その中で、被申請人会社の従業員である大崎運転手が業務運転中に飲酒(もしくは酒気帯び)運転しているとの話が出され、会合に途中から同席していた被申請人会社の仙波運輸部長がその場の常勤アルバイトガイドの人達に向かって、大崎運転手が業務中に飲酒していた事実を見た人があるかと尋ねると、右ガイドの全員が手を挙げた。

被申請人会社はその後、大崎運転手の業務中の飲酒の事実につき調査したが、その具体的事実を把握するに至らず、同年一〇月下旬に会社の運行管理者前の掲板示に「達」として、運転手一般に対し、「飲酒運転を行った場合には、厳重に処置をする」旨の掲示をなして、その注意を促がした。

(二) 昭和五六年四月三日、常勤アルバイトガイドの西と広谷が会社の田村運輸部付部長に面会し、大崎運転手の飲酒の事実を目撃したので、会社の方で何らかの処置をして欲しいとの申し入れをなした。これに対し、右田村は、会社の方で検討させてくれ、結果は後から連絡するとの旨の返事をした。

会社側はその後、大崎本人に事実を確認したり、指導運転手や本勤ガイド、常勤アルバイトガイド等数名に尋ねたりしたが、やはり事実を確認するに至らなかった。

(三) かねてより、申請人と申請外西、同佃とが常勤アルバイトガイドの連絡係を担当していたところ、昭和五六年四月一四日、申請人と右西とが立道運輸課長のもとへ、前に会社側が約束した検討の結果がどうなっているかを尋ねるために赴いた。

立道運輸課長は、会社側の意向として、「飲酒の事実がはっきりしないので、アルバイトガイドの人が見たというのであれば、いつ、どこで、誰が、どのくらい飲んだのを見たのか、書面で会社の方へ申し入れてくれ。」と二人に返答した。

(四) 昭和五六年四月一八日夜、翌一九日に大崎運転手とともに乗務予定となっていた常勤アルバイトガイドの三沢に申請人から架電したところ、明日の大崎との乗務のことに話が及び、申請人は右三沢に対し、大崎運転手との乗務は再考した方が良い旨アドバイスした。

右三沢は会社に対し架電し、松本運行管理者に対し、明日の大崎との乗務について、できれば断らせて欲しい旨申し出た。

被申請人会社は、三沢の外に乗務できるバスガイドを見出せないとの理由で、大崎運転手を三沢との乗務からはずし、同人は他の運転手とともに乗務させることとした。

(五) 三沢の会社に対する右意思表明につき、申請人の前記電話での話が影響していると察知した会社は、昭和五六年四月一八日深夜一一時ころ、前記仙波において申請人に対し架電し、同人の三沢への右架電の内容に不満の意思を表明するとともに、すでに勤務が予定されていた翌一九日の乗務についてはこれをしなくてよろしいとの会社の意向を表明した。

(六) 昭和五六年四月一九日以降、申請人には被申請人会社からの乗務の指示連絡は一切無く、申請人は被申請人会社での乗務の機会を完全に失った状態である。

(七) その後、前記大崎運転手は、昭和五六年五月二二日付で「てん末書」と題する書面を会社宛に提出し、その中で、飲酒運転の事実(但し日時は特定されていない。)を認めた。

これを受けて会社は、不二観光バス労働組合に対し「申し入れ書」を発し、その中で、会社としては大崎運転手を懲戒解雇の処分に付する意向である旨を伝えた。

その後、大崎運転手の処分問題につき、会社と組合との間で数回団体交渉が行われたが、結局昭和五六年七月二三日付で、大崎運転手は会社に対し退職願を提出し、会社側がこれを受け容れる形で、大崎運転手は会社を任意退職するところとなった。

なお、この間にあって、昭和五六年五月二五日、本件仮処分申請がなされた。

2  右三、1に記載した各事実を総合すると、被申請人会社が申請人に対し乗務を指示しなくなった理由は、申請人が前記三沢に対し大崎運転手との乗務については十分考慮した方が良い旨架電したことにあると判断される。

前記二のとおり、申請人と被申請人会社との間の労働契約は期間の定めのない継続的契約と判断されるところ、前記の事実によれば、被申請人会社が申請人に対してなした前記三、(五)の意思表示並びに同(六)の措置は、継続的労働契約を一方的に解約した解雇と実質的に異なるところはなく、そこにおいてはいわゆる解雇権の濫用の法理が働くものと考えられる。

そして、被申請人会社が申請人に対し実質的には解雇に該ると判断される前記三、(五)の意思表示をなすとともに同(六)の措置をとった理由は、申請人の三沢に対する架電の内容に動機、原因があると考えられることは前記のとおりであり、これを理由に申請人に対し実質的には解雇に該る措置をとることは、いわゆる解雇権の濫用にあたるものとして、雇用契約上の地位にある申請人の地位を一方的に打ち切るものとしては無効であって、申請人は被申請人会社との間で従前どおり雇用契約上の地位にあるものと判断される。

なお付言するに、被申請人は、右三沢が昭和五六年四月一九日の乗務を大崎運転手との同乗を理由に一旦断ったことをもって、会社側の業務の混乱の危惧を云云しているが、右三沢もアルバイトガイドであって、被申請人の主張によれば、アルバイトガイドは乗務日ごとの契約であって、原則としてアルバイトガイドの方で乗務するも、これを断るも自由である筈のものである。

さらに、被申請人提出の疎明資料中には、三沢が昭和五六年四月一九日の勤務を断ってのち、直ちに会社側で他の本勤ガイドや常勤アルバイトガイド、フリーガイド等の乗務が確保できないかとあたってみたところ、これができずやむを得ず運転手を交替させたとの部分が存するが、前記のとおり会社側は三沢を大崎以外の運転手との勤務にしたのち、続いて、同じ一九日の乗務がすでに予定されていた申請人の乗務を取り止めさせており、してみると、申請人の乗務予定になっていた部分についてはガイドにつき会社側において何らかの手当てがなされたことが窺われ、この点も被申請人側の言い分には首尾一貫しないものが感じられる。

四  申請人の賃金について

1  申請人が金員支払仮処分を求める金額の根拠とするところは別紙(四)記載のとおりである。

2  金員支払の仮処分は、いわゆる満足的仮処分に属するばかりでなく、事の性質上保証を立てさせるのも一般的には適当でないと考えられ、従って、例えば本件における賃金の金額を含め、その被保全権利の存在の疎明については相当強度のものが要求されるといわなければならない。

3  かかる観点より別紙(四)の内容をみると、まず時間外手当につき、申請人は(証拠略)(申請人作成の報告書)のみをもって申請の根拠とし(申請人によれば賃金の明細表は給料袋の中には入っていたが、これを保管していないとのことである。)、これによると時間外稼働時間数は申請人の日記から算出したものとのことであるが、その金額につき、被申請人が昭和五六年一月度ないし三月度分の基本賃金外の割増賃金として主張しているところと金額が合致しないこと等を考慮すると、これを平均賃金額の算定根拠とするには疎明不充分といわざるを得ない。

4  次に、オフ手当て(オフ保証給)については、昭和五五年一二月から同五六年二月までの分は一律月額五万円が支給されることとなっていたこと前記のとおりであるが、(証拠略)の昭和五六年アルバイトガイド料金規定によれば、昭和五六年一二月以降については、これを協力金と称し、その支給基準についても昭和五五年度までとは異なっていることが一応認められ、従って、昭和五六年一二月、同五七年一月、二月については各前年までの一律五万円とは違った形での支給がなされる(あるいはなされた)ものと推測されるところ、この昭和五六年一二月から同五七年二月までのオフ保証給(あるいは協力金)の具体的支給については申請人において何ら主張がなされておらず、さらに疎明資料によれば、昭和五五年一二月、同五六年一月、二月の各月に月額金五万円を申請人が被申請人からオフ保証給としてすでに支給されたことが一応認められ、これを平均賃金の算定の際に毎月受けるべき賃金の中に算入することは、上記の事情よりすれば相当でないものと判断される。

5  さらに、申請人が掃除手当として記載しているところのものは、(証拠略)によれば年末の三日間のみの特定の就労に対して支給されるものであることが一応認められ、かかる時期のかかる就労に関する主張に基づきこの手当の支給が申請されるのであれば格別、毎月の平均賃金の算定に際し、この手当分を毎月受けるべき賃金の中に算入することも相当でないものと判断される。

6  昭和五六年三月度(同年二月二一日より同年三月二〇日まで)の申請人の出勤日数は、別紙(四)(<証拠略>)によれば一四日ということで賃金計算がなされているが、別紙(三)(<証拠略>)では一三日とされ、この点に関し、被申請人の主張では申請人の昭和五六年三月度の基本賃金は一一万六〇〇〇円とのことであり、かかる事実及びこれに関する疎明資料を総合すると、申請人の昭和五六年三月のガイド乗務日数は六日であり、その対応賃金は六〇〇〇円であるものと一応認められる。

7  疎明資料によれば、昭和五五年一〇月度(同年九月二一日から同年一〇月二〇日まで)から同五六年二月度(同年一月二一日から同年二月二〇日まで)までの各月度の賃金のうち日給分は別紙(四)記載のガイド乗務と車掌乗務の各日当の合計額のとおりであり、同年三月度の日給中車掌乗務日当分についても別紙(四)記載のとおりであること及び通勤手当は上記いずれの月も二二三五円であることが一応認められる。

右の事実に加えて前記3ないし6の各事実及び判断を併せ考慮すれば、本件において、申請人が被申請人に対し賃金の仮払を請求しうる金額としては、昭和五五年一〇月度から同五六年三月度まで六カ月間の日給分と通勤手当の合計額を六で除して算出した月平均額金一一万六七三五円({232,000+71,000+100,000+44,000+124,000+116,000}÷6+2,235=116,735)とするのが相当である。

五  保全の必要性について

疎明資料によれば、申請人は夫(四二歳)と長男(小学校三年生)の三人家族で、夫は会社員として月平均二〇万円程度の収入があるが、長男は両耳に障害を有し医療費の負担が相当かかること、住宅ローンの支払いもあることから申請人もその経験を生かして被申請人会社で稼働をしていたものであることが一応認められ、かかる事実よりすれば、申請人の夫が就労し収入を得ていることを考慮しても、申請人につき上記の地位保全並びに金員支払の仮処分の保全の必要性は肯認できるものと判断する。

六  結論

以上の次第であるから、申請人の本件仮処分申請は、申請人が被申請人に対し雇用契約上の地位を有することを仮に定めること及び昭和五六年五月以降本案判決言渡しに至るまで、毎月二五日限り金一一万六七三五円の仮払いを求める限度で理由があるから、事案に照らし保証を立てさせないでこれを右限度において認容し、その余は失当であるからこれを却下することとし、申請費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 谷敏行)

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